はじめに
先日、練馬区立美術館のとある展示を訪れた。
中世・ルネサンス期のヨーロッパで作られた写本が並ぶ。
零葉の美しい「時祷書」(キリスト教徒のための祈祷書)。
活版印刷が誕生するまでは、写字生が文字を一つひとつ書き写し、本は複製された。
自分のことばを残すのではなく、伝えるべきことばを遺す。
そのために文字を書き写すことをうつくしく思った。
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恵まれた環境にあって、何ももたない。
「文学」がおまもりであり、最後の砦だと、いつからかずっと思っている。
同時に、「ことば」や「文字」について思う。
伝えたいことの大半をとりこぼす「ことば」を信じていない。
それは、身振りや表情と同じくらい曖昧。
でも、「ことば」が「文字」になり「文学」として残っていることに救われている。
印刷された「文字」(単なる紙とインク)に、
心を震わせたり、心を通わせたり、生きる力を得たりすることが不思議でならない。
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そんなことを考えながら、ここにことばを残すことをしてみたい。
「ことば」への問いをもちつづけたい。
願わくは、ここに訪れてくれた誰かにも、ふとした出会いが生まれたら。
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──声をかけてこの場を用意してくださったOさんに心からの感謝をこめて──
2023.4.1 小関 優