
ことばの栞
この道しかない春の雪ふる
種田山頭火
年末のチューニング。
一度こころを鎮めてから、ふたたびギアを入れたい。
時間ができればことばを迎えられるものではなく、
せわしなさと気がかりが控えていると、上滑りする。
ことばが入るまで数日かかる。
動きながら、待つ。街に出て、人に会う。
昨夜2時、強風が雨戸を打つ音で目が覚める。
明日は読めるかもしれない。
*
そうして今日。冬至。
あと2ヶ月、緊張感の持続は仕方ない。
それでも昨日までの感覚とは違うとわかる。
3日前に迎えたゆきふらしの雪模様のマグ。
眼、手、口にふれるものを選ぶ大切さが身に染みる。
マグの中で白湯がまあるく滑る。
指でなでると、澄んだ、こもったような音が鳴る。
雪の積もる、音のない景色を思う。
やるべきことがある、という得意の罪悪感は、
今日は見てみぬふり。明日にまわす。
*
朝、若松英輔さんのVoicyを聴いていると、
「こころを内的な他者として尊重すること」
という、大塚紳一郎さんのことばが紹介された。
内なる対話の相手、との文脈において。
自分のこころを他者として尊重する。
他者、として・・・
自分を責める癖がある。よく言えば、内省的。
自由に感じて考えるのが好きなくせに、
自分の考えなんて、感覚なんて、と卑下もする。
めんどうくさいし、ひねくれている。
だから文学が好きだ、と言いたい。
疑ってかかるのは大事なことだ。
そのなかで、「こころを内的な他者として尊重」できたら、
もう少し優しくなれるのではないか。
そうしてそれは、健康的である気がする。
*
小説はまだ難しい。
詩集か句集を選ぼう。
先日、失語症の女性が講義にいらした。
その方の手記が素晴らしく、感動した。
いつか、話す・書くが難しいなかで、
ことばを形にしたいと思うひとがいたら、
ことば・文字に表して外に届けることを一緒にしたい。
その女性は、種田山頭火が好き、と言った。
本棚で待つ背表紙にふれる。
本はいつだって見守ってくれている。
こちらが気持ちを向けるまで何も言わず、
手に取ると、来たね、と迎えてくれる。
*
岩波文庫の『山頭火俳句集』も良いが、
ちくま文庫の『山頭火句集』に好きな句が多い。
挿絵もかわいい。
*
冒頭で引用した句。
この道しかない春の雪ふる
もう一句。
わかれてきた道がまつすぐ
*
行きたい道を来た。
行きたいと思いながら、途中で折れた道もあった。
うねうねと、まっすぐ。
人は変わるし、いなくなる。
もらったことばは、ことばとして大事にする。
私も変わるが、離れられない。
「他者として」と、思ってみる。
優しくなれたらいい。
いざ、と踵を蹴って、
次の瞬間、春の雪に目の前が塞がれても、
行く道しかない。
たぶん、見えないだけで誰かいてくれる。
桜にふる雪はとてもきれい。

*出典 種田山頭火(村上護編)『山頭火句集』より
