ことばの栞
なにがしあはせかわからないです。ほんたうにどんなにつらいことでもそれがたゞしいみちを進む中でのできごとなら峠の上りも下りもみんなほんたうの幸福に近づく一あしづつですから。
宮沢賢治
やるべきことでいっぱいで、今夜は何もしないと決めた。
いまが、この先が、こんなにもありがたいのに、
なぜこうどこにも行けない気持ちになるのか。
*
いま、『銀河鉄道の夜』を読みたい。
このものがたりで泣いたことはないのに、
冒頭から涙が出つづける。
初めて音読をしてみる。
声にだすと、そのことばに
自分のなかのものが引きずり出される。
なにかを思う前に涙がでる。
このものがたりに無数の人たちが想いをのせてきた。
それらも『銀河鉄道の夜』になって、
いま、わたしはそれを読んでいる。
とても大きななにかに、
わたしも入れてもらっているように感じる。
まだ誰にも読まれる前の『銀河鉄道の夜』と、
ひとり書いている賢治のことを思う。
*
「本当の」ということばは、
「ほんたうの」だと立ち止まる。
「幸せ」も「幸福」もわからない。
「なる」ものではないと言い聞かせる。
ただ、賢治の「さいはひ」をイメージする。
わたしにはまだわからない、
とっても深い愛のようなものをぼんやりと思う。
*出典 宮沢賢治『銀河鉄道の夜』より