信じられているから走るのだ。間に合う、間に合わぬは問題ではないのだ。人の命も問題ではないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいもののために走っているのだ。
太宰治
約束は、「ことば」ではなく、お互いの想いのうちにある。
もし守ることが叶わなかったとしても、壊れないものもあるだろう。
「信じる」「信じられている」のちからに守られるものとはなにか。
漱石の『こころ』で、一生涯の秘密の告白を決める直前に先生は言う。
──私は死ぬ前にたった一人で好いから、他(ひと)を信用して死にたいと思っている──
その後、すべてを手紙に告べて彼は自死する。
秘密を留めておけたなら、生き続けたかもしれない。
でも、ひとり秘め続ける孤独を選び生きることと、
信じた人にすべてを預けて死を選ぶことの、どちらが哀しいか。
わからない、と思う。
*出典 太宰治『走れメロス』より