「その矛盾を私はこう生きました」というところに、個性が光るんじゃないかと思っているんです。
河合隼雄
およそ5か月振りのこの場所。
3日間行ったり来たりしながら、
書いては消し、直しては消した。
表題と下記の引用文は、
東畑開人さんがXで紹介されていた。
こころがぎゅっとなった。
私が文学や映画を求める理由でもあった。
人は生きていくうえで難しい現実をどうやって受け入れていくかということに直面した時に、それをありのままの形では到底受け入れがたいので、自分の心の形に合うように、その人なりに現実を物語化して記憶にしていくという作業を、必ずやっていると思うんです。
小川洋子
折り合いのつかないもの、
解決しようのないものは
澱のように溜まっていって、
自分を保つことに必死で、
どうしようもなく独りで、
心底自分をやめたくなるとき、
皆はどうするんだろうか。
私は本を開く。映画館に行く。
作品の人物を追っているのか、
自分のことを考えているのか、
わからなくなるくらいがいい。
自分に触れているような気もちになる。
*
小さい頃から、気持ちを誰かとシェアしたい、
と思うことがあまりなかった。
誰かと何かを作り上げるのは好きだったが、
それは、全員が同じ時間を共有することで、
個々を想像し合える安心感があるからだった。
*
嬉しいこと、辛いことほど言わない。
自分ひとりで守っておけば失われない。
伝えるために言葉にすると、
言葉の分だけ損なわれる。
嬉しいことを伝えると、
相手の機嫌を損ねそうで怖い。
100あった嬉しさは、簡単に半減する。
こういう考え方がひねくれている。
自分本位だ。かわいくない。わかっている。
皆はそれでもちゃんと伝えている。
*
子どもの頃から「冷めている」と言われ、
自分でも斜めから見ているという自覚があった。
弟は優しいので、生まれもった資質なのだろう。
10歳くらいのときに思った。
何かに傾倒したいとも熱狂したいとも思わない。
楽しいときは疑い、幸せなときには不安になる。
自分の直観は信じるが、その後はゆれている。
本当にそうなのか、何かをこぼしていないか。
こう思う、こう感じる。でも違うかもしれない。
こう思う、こう感じる。でもどう言ったらいい?
*
固めたくはない。
矛盾を抱えていきたい。
二元論におさめたくない。
*
最終的に浮上した感情には、
もともと矛盾する欠片の物語があった。
結果的に何かしらの感情が、
それらを代表することになった。
*
『インサイド・ヘッド』1・2を観た。
私の頭にもヨロコビがいるんだと思うと励みになった。
私のなかのヨロコビもっとがんばれ、と思った。
が、社会のなかの私は、ヨロコビ優位では?とも思った。
会社でも学校でも趣味の場でも、
ほとんど楽しく、たいてい仲よく、
明るく元気に過ごしてきたと思う。
けれどやっぱり、個人の私はカナシミが気になり、
カナシミに共感して泣きながら応援し、
序盤は、ヨロコビなんなの、と思った。
前向きに!明るく!頑張ろう!の優等生的立ち位置。
私のなかには確実にそういうヨロコビがいる。
薄めてきたけど、それで煙たがられたこともあった。
今だってそうかもしれない。
でも、インサイド・ヘッドのヨロコビは、
健気でしなやかな強さをもって、
主人公のこころを必死に守った。
私はこのヨロコビならいてほしいと思った。
2ではシンパイが独裁的に孤軍奮闘し、
最後は涙を溜めて自らフリーズした。
自分の頭のなかを見ているようで、
ごめん、と映画館でぼろぼろ泣いた。
帰りに残り1枚のチェンジング下敷きを買った。
こんなかわいい下敷き、生まれて初めて買った。
ヨロコビとカナシミが仲良くいられるように。
私のなかではヨロコビもがんばっている、
そのことを忘れないように下敷きを机に飾った。
*
ここ数年、徐々に、
外との折り合いについて考えるようになった。
言語化が苦手であるとか、
コミュニケーションについて課題感があるとか、
恵まれた環境にあることをどう咀嚼して
第三者としてできることを考えるのか、とか。
自分との折り合いと外との折り合いは、
別ものではなく、一緒に探れるものかもしれない。
そう思えるようになってきた。
折り合いはつかなくても、
自分にとっての矛盾が、
道しるべになるのかもしれない。
1年後、3年後、10年後、
どう変化しているかわからないけれど。
変化していくことはたしか。
それはすごい希望だ。
変化していくことができる。
今の学びもいつか自分の言葉になる。
*
すべては今まで掛けてもらった言葉や、
大切な人たちと過ごすなかで気づけたこと。
社会的な言葉ではない、
「私の」言葉を聞いてくれる人がいたから、
言語化して初めて気づく経験を少しずつ重ねてこられた。
*
まわりには好きな人たちがいて、
私の知らないいろんな物語がある。
日記を読ませてもらうことは、
その断片を見せてもらうことで、
とても大きな励みになっている。
二度とない日常と感情の記録を
いつもありがとうございます。
*
これらの断片は、ばらばらなようで同じ話。
引用した言葉から浮かんできたもの。
うまく言語化できない、私にとって大事な話。
*出典 河合隼雄・小川洋子『生きるとは、自分の物語をつくること』(新潮文庫)