数式は楽譜だ。読むのではない。おまえには聴こえるか。
ニールス・ボーア(クリストファー・ノーラン『オッペンハイマー』)
魅了されるとは、こういうことか。
わたしにとっては、人文学などの書物。
ほかの人にとっては、音楽、数学、美術…
学問に限らず人に対しても、
魅力を感じるというのは、
そういうことかもしれない。
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わたしは、好きな本で文字を読んでいない。
ことばの意味を理解しようとしていない。
時間や空間やことばを流れるように感じて、
自分自身のことばもあわせて聴いている。
けれど、苦手分野の本を開くと、
単なる文字と情報の羅列になる。
わたしにとっては数式も単なる記号で、
無心でテスト前に暗記するものだった。
数式を美しい、と感じられるひとたちは、
きっとまったく別の世界が見えていて、
わたしには感じられない感覚を浴びている。
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最終的に表面にでてくる種々の記号は、
目に見えない積み重ねを経てそこにある。
それをすべて感覚して聴くことができたら、
世界はもっと豊かでやわらかくなるだろうか。
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だからこそ、どんな学問であれ、
その集大成が何かを損なうことにつながるのは、せつない。
なにに対して音が聴こえてくるか。
自分には聴こえない音を聴く者がある。