数式は楽譜だ。読むのではない。おまえには聴こえるか。

ニールス・ボーア(クリストファー・ノーラン『オッペンハイマー』)

魅了されるとは、こういうことか。

わたしにとっては、人文学などの書物。
ほかの人にとっては、音楽、数学、美術…

学問に限らず人に対しても、
魅力を感じるというのは、
そういうことかもしれない。

*

わたしは、好きな本で文字を読んでいない。
ことばの意味を理解しようとしていない。

時間や空間やことばを流れるように感じて、
自分自身のことばもあわせて聴いている。

けれど、苦手分野の本を開くと、
単なる文字と情報の羅列になる。

わたしにとっては数式も単なる記号で、
無心でテスト前に暗記するものだった。

数式を美しい、と感じられるひとたちは、
きっとまったく別の世界が見えていて、
わたしには感じられない感覚を浴びている。

*

最終的に表面にでてくる種々の記号は、
目に見えない積み重ねを経てそこにある。

それをすべて感覚して聴くことができたら、
世界はもっと豊かでやわらかくなるだろうか。

*

だからこそ、どんな学問であれ、
その集大成が何かを損なうことにつながるのは、せつない。

なにに対して音が聴こえてくるか。
自分には聴こえない音を聴く者がある。

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