ちょっと想像してみてもらえるかな?おとぎ話の、その後のことを。
めでたしめでたし、あるいは、めでたくなしめでたくなし、その後のこと。
上田岳弘
おとぎ話の「めでたしめでたし」に、
子どもの頃から違和感があった。
──お姫さまは、王子さまと結ばれました。
──めでたしめでたし。
その一瞬は、そうかもしれないけど。
そのあとはどうなった?
ずっとめでたいまま続いた?
ふたりは仲が悪くなるかもしれない。
ほかに好きな人ができるかもしれない。
お城での生活がつまらなくなるかもしれない。
王子さまと結婚しないほうが、
女の人はめでたくあったかもしれない。
*
あるできごとが、めでたかったりめでたくなかったり、
どの地点で振り返るかによって意味は変わる。
だから、成功も失敗も、幸せも後悔も、
死ぬまでどうなるかわからない、と思っていた。
けれど最近は、死んでもわからない、と思う。
おこないや放ったことばは、
ずっと遠い未来まで更新され続ける。
亡くなった友人や祖母は、
わたしがどこに向かって生きるのか、
今なおつよくかかわっている。
彼女たちはわたしを更新し続ける。
わたしは彼女たちとの関係を更新し続ける。
しぐさや笑顔やくれたことばが、現にわたしを変える。
それは、わたしにとって、だけではなく、
彼女たちにとっての変化でもある。
*
ものごとを悪いほうへ考えたくなるのも、
ハッピーエンドの物語を素直に受けとれないのも、
そのほうが、わたしはほっとするからだ。
でも、ここ最近は、
もうすこし先に光をみることがふえている。
死が終わりでないのなら、物語は終わらない。
終わりがないのなら、絶望もないだろう。
死別したあとに仲直りすることもできる。
ひとりで完結するものはなにもない。
その先の、もっと続きを。
未来はわたしよりも、ずっとずっと長い。
*出典 上田岳弘『最愛の』より