人の心というのは、簡単にいえば、二つの要素からなっています。一つは懐かしさ。もう一つは喜び。この二つを同時に感じるのです。

岡潔

初めて知った、けど知ってた。

知識として理解するよりも前に、
自分のどこが何を知ってたのか。

好奇心か、問いの集まりか、
なににもならない不安の中、
前触れもなく出会ったりする。

*

──わからないものに関心を集めているときには既に、情的にはわかっているのです。発見というのは、その情的にわかっているものが知的にわかるということです──

──情の働きがなければ、知的にわかるということはあり得ません。知や意は、情という水に立ついわば波のようなもの。現象なのです──


──わたしは数学をやっています。数学の研究とはどういうことをしているかといいますと、情緒を数学という形に表現しているのです。
 どのように表現しているか、というところはわからないのです。無意識の無生法忍を使うわけです。つまり発端と結論がわかっていて中がわからないのです。大自然にまかせて、その理法によって表現します。
 古人は、理法といえば法のあるところかならず行ないうると考えていたから、力という意味になるのです。
 赤ん坊がその情緒を自分の肉体に表現します。これなら三十二ヵ月で全部できるようになります。その赤ん坊は一生それをひきのばしてやっていくのです。
 わたしは数学をやっているので数学のことをいったのですが、数学だけでなく学問・芸術みなそうであろうと思います。すなわち真・美になりますが。善だってやはりそうだろうと思います──

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*出典 岡潔/森田真生編『数学する人生』より