ことばをつかうかぎり、かならず、ことばのないものにつきあたる。
そのときいちばんだいじなことは、ことばのないがわにいる、ふりをしないことだ。
斉藤倫
もともと言葉があったわけじゃない。
言いたいことはいつもそれじゃない。
文字にすると、輪郭がみえる。
声にすると、とたんに消える。
ただしい言葉はないから、
さがしてたら間に合わない。
わたしの意味を伝えたいわけじゃない。
あなたの意味を知りたいわけじゃない。
でも、言葉がある側に在って、
零れ落ちもし、掬われもする。
ことば、があるからこそ。
*
──そんな、すきまにしかないものが、じしょに、のってるはずあるかい?──
(p.20)
──それぞれのことばには、それぞれの、ひびきやリズムがある。
あたまのなかで、ぱっともじにおきかえて、いみにしてしまうから、きこえなくなるんだよ──
(p.59)
*出典 斉藤倫『ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集』より