古い本には、作者の命と共に、その本の生まれた時代の感情といったものがこもっているように思われる。
関口良雄
文学館で直筆原稿を見るとき、私は作家と対面している。
取消線や塗潰しや言葉の置き換えや入れ替え。
作家の腕に込められた力や苦しみが見えるように思う。
100年後、現代作家の文学館に直筆原稿はあるのだろうか。
100年後も「本」が完全になくなることはないと信じたい。
電子書籍は書物とは別のものであり代替物にはなりえない。
部屋に並ぶ本たちは、開かれることのほうが少ない。
ただなにも言わずに見守ってくれている。本当にそう感じる。
気まぐれに手にとると、命あるものとして対話してくれる。
そこに正しさはなく(そもそも文学にそんなもの求めていない)、
作家まるごとの存在と本の手触りと時空を超えた応答がある。
*
『昔日の客』
夏葉社の島田潤一郎さんが復刊してくださった古本随筆。
──古本と 文学を愛する すべての人へ──
この帯の文句と素晴らしい装幀に、ずっと一緒に、と思う。
古本を巡る随筆だが、本への想いもさることながら、
著者 関口良雄さんと作家との交流や交感に元気をもらう。
古本と、文学を愛する人たちへの愛が、書物全体からほとばしり、
それがとても清々しく心をあたためてくれることに勇気をもらう。
*出典 関口良雄『昔日の客』より