待っていたとはありがてえ

中村勘三郎

待たれている人と、待っている人。
そのあいだは別々の時間を過ごしている。

待っている人がいるとき、
信じるというよりも、わかっている。

待ってくれている人がいるとき、
おそらく自分も堪えて待つことができる。

*

歌舞伎舞踊「お祭り」の冒頭。
粋な姿で鳶頭が登場。

動きの止まる一瞬の間、
大向うから「待ってました!」の掛け声。

──待っていたとはありがてえ──

「お祭り」と言えば、の一場面。

*

2011年、18代目中村勘三郎が病気療養後の復帰舞台。
客席からは「待ってました!」「中村屋!」の万雷の声。

その声をかける日をみんな待っていた。

勘三郎は胸を熱くしながらあの調子で、
「待っていたとはありがてえ」と粋に放った。


ずっと一番好きな役者。
もういくら待っても舞台はみられない。

line

*出典 歌舞伎舞踊「お祭り」より